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海外レポート
無人セルフ写真館の現実──韓国の店は、客に何をやらせているか(後編)
連載 ・ セルフ写真館の“本場”韓国はいま(全3回)
第3回:無人・技術編|客に何をやらせているか
前編からの続きです
前編では、韓国の無人店が客に電源を切らせる運用と、無人店舗の窃盗が5年で3倍に増えたという現実を見ました。後編では、実際に壊されたときの示談の実例、売上と利益が逆転する収益構造、そして次に来る技術を見ていきます。
韓国の無人店は、客に電源を切らせる
ソウル・舎堂(サダン)にある24時間営業の無人スタジオでは、入室した客が最初にやることが「入ってすぐ左のスイッチを全部つける」ことです。そこから先も、なかなかの手順が待っています。
- 1PCの電源を入れる
- 2自分の名前でフォルダを作る
- 3カメラの撮影ソフトを起動し、保存先に自分のフォルダを指定する
- 4カメラのライブビューをONにする
- 5無線リモコンで撮影する
- 6印刷はプリンタの電源を入れ、光沢面を手前にして用紙を挿す
出典:店舗利用レポート(ネイバーブログ、2026年3月18日)
そして退室時のルールが、「電源タップだけ切って退室」。日本の感覚だと客側の負担がかなり重く見えますが、注目したいのは退室タスクを1アクションに絞っていることです。あれこれ頼まず、電源だけ。
別の店ではもう少し細かく、PCのシャットダウン・エアコン・電源タップの確認までを客に求めています。京畿道・一山(イルサン)の24時間無人スタジオがそうで、次の予約者のために時間厳守と、小物やリモコンを元の位置に戻すことも明記されています。
他の店のルールも並べてみると、無人運営の現場で何が起きているかがそのまま透けて見えます。
- 背景紙を破損したら10,000ウォン(約1,100円)(弁償額を明示)/別の店では「賠償金を請求します」
- 飲食物の持ち込み禁止、シャボン玉禁止(=清掃コストの発生源)
- ストライプのシャツ禁止(モアレ防止という撮影品質側の理由)
- ペット可の店ではペットシーツは持ち帰り
- 55分利用・5分前退出など、時間の切り方を明文化
出典:各店舗の公式ブログ・予約案内(2024〜2026年)
どれも、誰かが実際にやらかしたからルールになったものばかりです。無人店をやっていると、この手のルールが1年ごとに1行ずつ増えていく感覚がよくわかります。
鍵は「予約者だけに有効な権限」へ
無人店でいちばん難しいのが、どうやって中に入れるかです。韓国では、いま移行の途中にあります。
| 方式 | 中身 | 弱点 |
|---|---|---|
| 従来:暗証番号 | 予約の前日にSMSでドアロックの番号を送る | 番号が流出すると予約時間外にも入れてしまう |
| 新:一時権限 | 予約が確定した客にだけ有効な解錠権限をカカオトークで送る。スマホから遠隔解錠も可能 | 導入コストと、通信が落ちたときの代替手段 |
後者を担っているのが「잇소키(Itsokey)」というIoTドアロックで、ネイバーのストア価格は172,000ウォン(約19,000円)。実際に仁川・富平のセルフ写真館が、この解錠権限をカカオトークで配る運用をしています。
出典:Itsokey公式サイト、導入店舗の公式ブログ(2024年9月)、販売代理店ブログ(2026年4月11日)
撮った写真をどう渡すか
無人店の生命線がここです。韓国では業態によってはっきり分かれていました。
- 部屋貸し型:メール送信、USB持ち帰り、カカオトーク。原本は全部無料という店も
- フォトブース型:QRコードでダウンロード。ただし有効期限つき
興味深いのは、フォトブース型の大手がプライバシー設計を対外的に説明していることです。人生四カットはQRの有効期限を撮影日から3日、フォトグレイは24時間に制限し、原本データは機械に残さず自社サーバへ移すと明言しています。
出典:エコノミックレビュー(2024年4月30日、李ソムイ記者)
無人店にとって「撮影データが現地の機械に残り続ける」ことは、それ自体がリスクです。この2点──筐体に原本を残さない、QRに期限を切る──は、無人でやる以上どこの国でも避けて通れない論点だと思います。
なお部屋貸し型では、客にLightroomを直接操作させて書き出させる店も普通にありました。証明写真やパスポート写真を無人で提供している店もあります。日本の無人スタジオがまだ取っていないポジションです。
無人店舗の窃盗は5年で3倍
ここからは、あまり楽しくない話です。韓国の警察庁が国会に提出した資料によると、無人店舗の窃盗件数はこうなっています。
出典:韓国警察庁(国会議員室への提出資料)/世界日報 2026年4月15日、蔡明俊記者
無人フランチャイズ店舗の数自体が2020年から2025年4月で314%増えているので、店が増えれば件数も増えます。ただ、中身がなかなか厳しい。
出典:エスワン犯罪予防研究所(5年分析)、警察庁/韓国日報 2023年10月1日
この報道が対象に挙げた無人店舗の業種には、写真館が明記されています。実際に、光州では10代が鉄バールでキオスクを壊す事件が起きており、犯行時間は40秒以内でした。
被害額が小さいことも、かえって問題を難しくしています。1回5,000ウォン(約550円)前後の被害では警察も動きにくく、店主も「CCTVの確認に時間がかかり、立証も難しい」と通報をためらう。研究者からは出入管理システムや保安システムの設置、保険加入を義務化するガイドラインが必要だという提言も出ています。
対策として挙げられているのは、クレジットカードやQRコードで本人認証してから入場させる仕組みです。前の章で見た「予約者だけに有効な一時権限」への移行は、単に便利だからではなく、この流れの中にあると考えたほうが正確でしょう。
壊されたとき、実際にどうしているか
韓国の法律相談サイトに、無人写真館の器物破損の実例が残っていました。当事者側からの相談なので、店側の対応がそのまま読み取れます。
- 被害:撮影キオスクの破損、カードリーダーの配線切断、モニターを拳で数回殴打
- 店主が提示した示談金:総額240万ウォン(約26万円。4人組で1人60万ウォン=約6万6,000円)。修理費+営業損失+慰謝料を含む
- 店主の対応:CCTV映像は個人には見せない(警察立ち会いの下でのみ確認可)
- 期限を切って「本日中に入金がなければ刑事告訴」
出典:ロートーク(韓国の法律相談プラットフォーム)に投稿された相談事例
実務として学べる点が2つあります。ひとつは示談金を「修理費だけ」にしていないこと。機械が止まっている間の営業損失と慰謝料を合わせて請求しています。もうひとつはCCTVを自分の判断で見せていないこと。個人情報でもある映像を当事者に直接開示せず、警察経由に一本化しています。
無人店をやっていると「もし壊されたらどうするか」は必ず一度は考えます。実際に起きた事案の相場と対応が1件でも見られるのは、正直ありがたい情報でした。
売上が大きい店ほど儲かるとは限らない
韓国メディアが、ソウル・良才川近くの貸しスタジオ2店を取材した比較があります。この数字が、かなり効きます。
| 項目 | A店 | B店 |
|---|---|---|
| 時間あたり料金 | 6.6〜8.8만원 | 11만원 |
| 月売上 | 약 648만원 | 약 1,254만원 |
| 月純利益 | 약 345만원 | 약 96만원 |
| 投資回収率 | 약 50% | 약 20% |
出典:セカンドサラリー(2025年10月22日)
※円換算(1ウォン≒0.11円):月売上はA店 約71万円/B店 約138万円。月純利益はA店 約38万円/B店 約10万円。時間あたり料金はA店 約7,300〜9,700円/B店 約12,100円。
売上が2倍近いB店のほうが、純利益は3分の1以下。運営費が売上の約25%を占め、その中心が予約プラットフォームの手数料と広告費だからです。売上を伸ばすために広告に出し、プラットフォーム経由の予約が増え、手数料が積み上がる。
同じ記事は、貸しスタジオのリスクとして「レビュー評点が下がると予約が急減する」ことも挙げています。集客をプラットフォームに預けた瞬間、店の生死がレビューの点数に握られる。無人であるかどうか以前の、構造の問題です。
なお開業費用の実額も出ていて、貸しスタジオ型は6,000〜8,000万ウォン(約660〜880万円。内装3,000〜5,000万+保証金)。フォトブース型は10坪で約1億ウォン(約1,100万円)が目安とされていました。
次に来る技術は「照明」と「AI」
最後に、韓国で「次のセルフ写真館」として動いているものを見ておきます。
照明を自社開発する
2025年に登場した퍼즈포즈(パーズポーズ)は、照明システムを自社開発したことを前面に出しています。ホワイトから低照度、ネオンまで、雰囲気をボタンひとつで切り替えられる。料金はベーシック70,000ウォン(約7,700円)/プレミアム80,000ウォン(約8,800円)で、9枚セレクト・補正・印刷込み、原本は無料。
ただし専門の補正スタッフが2時間以内に補正データを納品するとあるので、こちらも完全無人ではありません。ソウル・新沙に1店舗で、盆唐と水原に出店準備中です。
出典:パーズポーズ公式サイト(2026年8月5日取得)
AIで撮影そのものを変える
씨잌(シイク)は、広告写真家が立ち上げたセルフスタジオで、技術がかなり尖っています。
- 音声認識で撮影(「撮影」などの声で シャッターが切れる。特許出願中)
- 撮影者の身長に合わせてカメラの高さが自動調整される(特許出願中)
- AIによる顔の輪郭・肌の自動補正
出典:毎経エコノミー(2023年4月8日)、中央日報(2023年2月1日)
人生四カットも次世代店舗で75インチのディスプレイを背景に使い、キオスクで背景色を選ばせる「デジタル背景システム」を国内初として導入しました。背景紙を貼り替える作業自体をなくす発想です。無人店にとって、背景紙は破損と交換の手間がかかる代表格なので、これは実務的にも合理的です。
さらに新しいところでは、撮影後に選んだ画風でキャラクターを生成して即座に印刷するAIフォトブースが出てきています。ウェブトゥーンとコラボして特定の絵柄を学習させたもの、1940年代〜1990年代の時代別スタイルを適用するフィルターなど。ロッテワールドや弘大入口に設置され、展示会・イベント向けのB2Bとして展開されています。
福島の無人店から見て
韓国の無人店を一通り見て、うちと比べてどうだったか。正直に書きます。
やっていることの方向はほぼ同じでした。完全無人、オンライン予約、遠隔制御、撮影データの即時受け渡し。違ったのは、客に任せている範囲です。韓国の店は電源やPCの操作まで客に委ねていますが、GENICAはそこを自動化して、お客様には撮影だけに集中していただく設計にしています。どちらが正しいという話ではなく、人件費と自動化コストのどちらを取るかの判断だと思います。
そのうえで、負担を減らす自動化はかなり進めています。ロボット掃除機(SwitchBot S1)が朝晩自動で清掃し、店内のPC・キオスクタブレット・照明・カメラはすべて遠隔操作が可能。カメラはメーカーのSDKを使った自社開発システムで動かし、エアコンと照明は自動制御、撮影データは自作の画像受け取りサイトでお渡ししています。韓国の無人店が標準装備している要素と、目指している方向はほぼ同じだと調べていて感じました。
防犯の数字については、韓国と日本をそのまま比べることはできません。ただ「無人店舗の窃盗犯の52%が10代」「手口の91%が機械の物理破壊」というのは、無人でやる以上どこでも起こりうる話として受け止めています。うちは現金を置いていないので現金目的の破壊対象にはなりにくいはずですが、それも「はず」でしかありません。
3回にわたってお付き合いいただき、ありがとうございました。これからも東北から、世界のセルフ写真館のいまをお届けしていきます。
よくある質問
- Q韓国の無人セルフ写真館はどうやって入るの?
- 予約の前日にSMSでドアロックの暗証番号が届く方式が一般的ですが、予約した人にだけ有効な一時的な解錠権限をカカオトークで送る方式(Itsokeyなど)へ移行が進んでいます。固定の暗証番号だと予約時間外の入室を防げないためです。
- Q無人だと退室のときに何をするの?
- 韓国の部屋貸し型では、客に電源系の操作をさせる店が普通にあります。実際の店では「電源タップだけ切って退室」という1アクションのルールや、PCのシャットダウン・エアコン・電源タップの確認まで求める店が確認できました。小物やリモコンを元の位置に戻すルールもほぼ共通です。
- Q無人店舗は防犯上どれくらい危ないの?
- 韓国では無人店舗の窃盗件数が2021年3,514件から2025年11,015件へ、5年で3倍以上に増えています(警察庁)。犯人の52%が10代で、手口の91%がキオスクを工具で物理的に破壊するもの。統計上、写真館も対象業種として明記されています。
- Q無人セルフ写真館は儲かるの?
- 売上の大きさと利益は一致しません。韓国メディアが取材した貸しスタジオ2店の比較では、月売上1,254万ウォンの店の純利益が96万ウォン、月売上648万ウォンの店の純利益が345万ウォンと逆転していました。予約プラットフォームの手数料と広告費が運営費の中心で、売上の約25%を占めるためです。
この記事の調べ方
実店舗の運用ルールは、各店の公式ブログ・予約案内(2022〜2026年)を韓国語の原文で確認しました。防犯統計は韓国警察庁の国会提出資料(世界日報2026年4月15日)とエスワン犯罪予防研究所の分析(韓国日報2023年10月1日)、収益構造はセカンドサラリー(2025年10月22日)、データ受け渡しの設計はエコノミックレビュー(2024年4月30日)、次世代技術は各ブランド公式サイトと毎経エコノミー・中央日報・毎日経済・電子新聞の報道によります。金額は原文のウォン表記のままとし、概算には1ウォン=0.11円を用いました。裏づけの取れなかった店名・機能は本文に載せていません。
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