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海外レポート

韓国のセルフ写真館はいま──売上2.4倍の裏で、廃業は3.5倍(後編)

連載 ・ セルフ写真館の“本場”韓国はいま(全3回)

第1回市場編|売上2.4倍の裏で、廃業は3.5倍

前編からの続きです

前編では、韓国の即席写真館の売上が4年で2.4倍に伸びる一方、廃業はそれ以上の3.5倍に増えていることを国税庁のデータで見ました。後編では、実際に使っている人たちのデータと、公的機関が現地30店舗を回って指摘した業界の不透明さを見ていきます。

まず「セルフ写真館」を3つに分ける

調べはじめてすぐに気づいたのは、韓国語の「셀프사진관(セルプサジングァン)」が性格の違う3業態の総称になっていることです。ここを分けないまま数字を並べると、必ず話が噛み合わなくなります。

業態中身価格帯
①フォトブース型筐体を数台並べた無人店。人生四カット、フォトイズム、ハルフィルムなど4,000〜5,000원
②有人セルフ型個室でスタッフの案内を受け、自分でシャッターを切る予約制。オディティモードなど50,000〜60,000원
③作家撮影型写真家が撮るが、思想はセルフ写真館寄り。シヒョナダ、ムルナム写真館など54,000〜450,000원

そして、日本で「セルフ写真館」と呼ばれている業態──1時間単位で個室を貸し、客が自分でカメラを操作する形──は、韓国ではむしろ「셀프스튜디오(セルフスタジオ)」「렌탈스튜디오(レンタルスタジオ)」と呼ばれることが多い。GENICAに一番近いのはここです。

POINT
この記事で扱う統計の多くは、韓国の業種区分では「즉석사진 촬영기 운영업(即席写真撮影機運営業)」に属します。名前のとおり主に①のフォトブース型の機械を指す区分で、②③や部屋貸し型が全部含まれるとは限りません。国の統計としてはこれが最も精度の高い時系列なので使いますが、その限界は先にお伝えしておきます。

国税庁データ:売上2.4倍、廃業3.5倍

最も確度が高いのは、韓国国税庁の課税標準データです。2026年2月17日、国会議員室が国税庁から提出を受けた資料として韓国各紙が一斉に報じました。

売上(課税標準)円換算廃業件数
2020年1,344억원約148億円176건
2021年1,337억원約147億円195건
2022年2,471억원約272億円296건
2023年2,906억원約320億円514건
2024年3,196억원約352億円611건

出典:韓国国税庁(国会議員室への提出資料、2026年2月17日)。韓国経済新聞・デジタルタイムズ・ヘラルド経済・ソウル経済・イーデイリーが同一データを報道。

売上は4年で約2.4倍。ここだけ見れば絵に描いたような成長市場です。ところが同じ資料の廃業件数は176件から611件へ、約3.5倍。伸びているのは市場だけで、個々の店は退場し続けている、という構図がはっきり出ています。

さらに面白いのは、同じ記事が比較対象に置いたクレーンゲーム店(인형뽑기방)です。こちらは売上が2020年460億ウォン(約51億円)から2024年1,241億ウォン(約137億円)へ伸びる一方、廃業は979件から506件へ半減しています。

同じ「MZ世代向けの無人業態」で、一方は売上増+廃業増、もう一方は売上増+廃業減。クレーンゲーム店は先に過当競争を通り抜けて整理が済み、写真館はいまその真ん中にいる──そう読むのが自然だと思います。

最大手が縮んでいる

市場全体が伸びていても、トップブランドが伸びているとは限りません。フォトブース型の最大手「인생네컷(人生四カット)」の加盟店数の推移がそれを示しています。

  • 2021年 239店 → 2022年 401店(ピーク)→ 2023年 383店 → 2025年時点 330店規模
  • 運営会社の売上:2022年 254億ウォン(約28億円)→ 2023年 225億ウォン → 2024年 190億ウォン台(約21億円)
  • 2024年は営業損失47億ウォン(約5億2,000万円)

出典:ビズハンクック「무인사진관 시장」(2025年6月2日、朴恵娜記者)

加盟店の数字はもうひとつ厳しいものがあります。公正取引委員会に登録される情報公開書をもとにした報道では、人生四カットの加盟店平均売上は8,880万ウォン(約977万円)に対し、開業費用が9,995万ウォン(約1,100万円)平均的な店は、1年分の売上をまるごと当てても開業費を回収できていないということです。

一方で同じ資料では、ハルフィルムの加盟店平均売上は開業費用の4倍を超えるとされています。ブランドによって差が大きく、「セルフ写真館は儲かる/儲からない」という一括りの議論が成り立たないこともわかります。

130mに5店舗、そして中古機材の投げ売り

なぜ廃業が増えるのか。現地メディアが挙げる理由は明快で、狭い商圏に同業が密集したことです。

  • ソウル・城水洞(성수동)では130m圏内に5店舗
  • 慶州の黄理団キル(황리단길)には無人写真館が16店舗密集
  • 弘大・城水などでは1エリアに30店舗以上が集まる例も

出典:ビズハンクック(2025年6月2日)、個人ブログによる商圏調査(2023年1月)、業界まとめ(2026年7月)

そして市場の温度がいちばん露骨に出るのが、中古機材の値段です。フォトキオスクは新品で1,000万ウォン(約110万円)を超えますが、

POINT
中古相場は200〜300万ウォン(約22〜33万円)。急いで手放したい場合は100万ウォン台(約11万円台)まで落ちる。
出典:ビズハンクック(2025年6月2日)

新品の1/5から1/10です。撤退する店が売りに出す機械が市場に溢れている、という以外に説明のつかない値崩れ方だと思います。

注意
韓国のメディアの中には、2026年2月時点で「繁華街から潮が引くように消えている」と書いているものもあります(CEOジャーナル 2026年2月9日)。ただしこの記事は定性的な記述で、年度別の店舗数などの統計は示していません。「消えている」という表現は、数字の裏づけがあるのは廃業件数(611件)までです。

客単価950円・月1.27回という実像

では、使う側はどうなのか。ここは韓国消費者院(한국소비자원)の実態調査が最も詳しいです。14〜39歳の利用経験者500人に対する調査で、実査は2023年9月20〜26日、実施はエムブレインリサーチ。

年代月平均の利用回数1回あたりの支出
10代(14〜19歳)1.8회8,006원
20代1.37회8,425원
30代0.64회9,644원
全体1.27회8,693원

出典:韓国消費者院『셀프 포토 스튜디오 서비스 관련 실태조사』(報告書2023年10月/報道資料2023年11月23日)

全体の客単価は8,693ウォン(約950円)。平均同伴人数3.1人なので、グループで来て1人1,000円弱を落として帰る計算です。日本のセルフ写真館の相場感(数千円)とは、そもそも桁がひとつ違う商売だとわかります。

そして10代が月1.8回と最も頻繁で、30代は0.64回。新韓カードのビッグデータ分析でも、2023年12月〜2024年2月の文化消費項目で10代のセルフ写真館利用比重が67%と1位でした。カフェでも映画でもなく写真館が1位、というのは日本の感覚だと少し驚きます。

よく引用される「前年比287%増」という数字も、正確には2022年上半期に、MZ世代の写真館利用規模が2021年比で287%増えたという新韓カードビッグデータ研究所の分析です(韓国消費者院報告書の引用)。写真館全体が対象で、セルフ写真館に限定した数値かどうかは原文からは断定できません。

公的機関が指摘した業界の不透明さ

同じ韓国消費者院の調査には、ブームの陰の部分もはっきり書かれています。上位10社・ソウルと京畿の30店舗を実地調査した結果です。

注意
  • 30店舗すべてで現金の釣り銭が返らない
  • 全社が、決済を済ませたあとでしか撮影回数を知らせない
  • 30店舗すべてが領収書を発行しない
  • 10社中7社が偶数枚しか出力できない

出典:韓国消費者院(実地調査2023年8月28日〜9月27日、対象30店舗)

利用者側の被害経験率も22.6%(500人中113人)で、内訳は機械の故障が55.8%、残額の未返還が23.0%、二重決済が12.4%。「釣り銭が返らないことに気づいていなかった」人は81.2%、「不適切だと思う」は90.4%でした。

無人化とは、こういう細部が誰にも監視されないということでもあります。公的機関がわざわざ30店舗を回って報告書にした意味は、そこにあると思います。

GENICAGENICA
釣り銭と領収書の話は、他人事として読めませんでした。GENICAは現金を扱わず事前のオンライン決済だけにしているので釣り銭の問題は構造的に起きませんが、「無人だから客が確認できない部分」は必ずどこかにあります。うちの場合は撮影時間の残りが分かりにくいという指摘を過去にいただいて、画面表示を直しました。無人店の誠実さは、こういう小さいところの積み上げでしか示せないと思っています。

福島の無人店から見て

ここまでの数字を並べて、いちばん重く受け止めたのは「売上が伸びている市場でも、店は畳まれている」という事実です。市場の成長は、個別の店の安全を何ひとつ保証しません。

同時に、韓国の廃業増の主な理由が商圏の密集だったことは、福島でやっているGENICAにとっては現実的な安心材料でもあります。130m圏内に5店舗という環境と、そもそも近隣に同業がほとんどない環境では、戦い方がまったく違います。

GENICAGENICA
韓国の数字を追っていて、うちが勝負しているのは「流行に乗る速さ」ではないな、と改めて思いました。市場が伸びるかどうかは自分では動かせませんが、商圏の中で必要とされ続けるかどうかは自分の手で変えられます。第2回では、その韓国の店が5,000円以上払わせて何を売っているのかを分解します。

次回は有人プレミアム型の商売の仕組みです。撮影者に「段位」をつけて価格を変えるブランド、ホテルの中に入った写真館、そして社員証撮影というB2B。日本ではあまり紹介されていない部分を、公式サイトの実額つきで見ていきます。

よくある質問

Q韓国のセルフ写真館の市場規模はどれくらい?
国税庁の課税標準ベースで、即席写真撮影機運営業の売上は2020年1,344億ウォンから2024年3,196億ウォンへ、4年で約2.4倍に増えました(2026年2月17日に韓国各紙が報道)。ただしこの業種区分は主にフォトブース型の機械運営業で、部屋を貸すスタジオ型は必ずしも含まれません。
Q韓国のセルフ写真館は儲かっているの?
市場全体の売上は伸びていますが、同じ国税庁データで廃業件数は2020年176件から2024年611件へ約3.5倍に増えています。売上の伸び(2.4倍)より廃業の伸び(3.5倍)が速く、過当競争の局面に入っています。
Q韓国のセルフ写真館の客単価は?
韓国消費者院が2023年9月に14〜39歳の利用者500人へ行った調査では、1回あたりの平均支出は8,693ウォン、月平均利用回数は1.27回でした。10代は月1.8回と最も頻度が高く、30代は0.64回です。
Q「セルフ写真館」という言葉は日本と韓国で同じ意味?
違います。韓国では①フォトブース型(人生四カット等の筐体を並べる無人店)②有人セルフ型(個室でスタッフの案内を受けながら自分で撮る予約制の店)③作家撮影型(写真家が撮るがコンセプトはセルフ写真館寄り)の3層が同じ言葉で語られます。価格帯も数千ウォンから30万ウォンまで開くため、混同すると話が噛み合いません。

この記事の調べ方

韓国語の一次情報(公的機関の報告書、韓国メディア、ブランド公式サイト)を直接読んで作成しました。主な出典は、韓国国税庁の課税標準・廃業件数データ(国会議員室への提出資料、2026年2月17日報道)、韓国消費者院『셀프 포토 스튜디오 서비스 관련 실태조사』(2023年10月)、新韓カードビッグデータ研究所の分析(同報告書の引用)、ビズハンクック(2025年6月2日)、CEOジャーナル(2026年2月9日)。金額は原文のウォン表記のままとし、概算には1ウォン=0.11円を用いました。数字の裏づけが取れなかった記述は本文に載せていません。

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